同人誌と性表現法知識
当社の同人誌に係る性表現に対する考え方、及びその対応について
「刑法猥褻罪・青少年育成条例・児童ポルノについての認識」
1 はじめに
私たちは、これまで長年同人誌の制作に携わってきた関係上、大勢の同人誌仲間の方々に接し、色々なご意見もお受けしてまいりました。中にはプロになった方もおられ、あるいはその反対の人もおられ、途中で筆を折られ挫折した方もいらっしゃいました。
考えてみれば同人誌という世界の、極めて小さな分野のいわゆる同人誌仲間(サークル・個人)で活動する人たちのほとんどの人は、趣味とはいえ年月と私費を消耗しながら、細々と、地道な活動を重ねているのです。いまでもそうです。
一方、とくに最近、青少年やそれを取巻く社会環境の悪化(暴力、性犯罪、児童ポルノ問題等、現代の社会風潮)は深刻な問題になってきています。その原因は多様化、複雑化、複合的でとても一口で正鵠を射ることはできません。
しかし、一部の人たちに、同人誌は「露骨なポルノ漫画」・「成人向けのエロ漫画」というふうに有害雑誌としてひとまとめにして捉えられ、
(それは一部のジャンルのことで、ほとんどの同人誌は、けっして不健全なものではありませんが、、)
多くのまじめな同人誌作家の方々はこまっておられるのです。まことに憂慮すべき事態です。
ようやく萌芽しつつあるこの同人誌文化の灯を消さないためにも、私たち関係業界の者は勿論、襟を正すべきところは正し、改善すべきところは改善し、
年間のべ200万人の動員力を持つといわれる同人誌作家や多くのファンの方々と手を携え
その膨大なエネルギーを健全で有益な同人誌文化のさらなる発展と、地域社会貢献のために活用していかなければならないと考えています。
2 各種法令の熟知と規範意識の徹底
各種法令の熟知
我々が特に注意しておかなければならない規範は、大まかにいって以下のの2点だと思います。
- 法律(特別法を含む)
- 条例及びその規則
具体的には以下の3点です。
- 刑法175条
- 青少年育成条例
- 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(抜粋) (児童福祉法)
(1) 刑法第百七十五条 【 わいせつ物頒布等 】
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、 二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。
(2) 東京都条例 (抜粋・・・条例はどこの自治体も大同小異のため東京都を参考にしました)
第七条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場
(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)
を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。
(3) 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律 (抜粋)
第二条 3項
この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
- 1 号児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
- 2 号他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 3 号衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
3 規範意識の徹底と法の解釈運用
(1) 刑法第百七十五条 【 わいせつ物頒布等 】について
猥褻の文書、図画その他の物を頒布、若しくは、販売し、又は公然これを陳列したる者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処す。
販売の目的をもってこれを所持したる者また同じ。
* わいせつとは、一体何がわいせつに当たるのか。
一口に言って「わいせつの定義」はとても難解です。
これがわいせつで、これはわいせつではない。と明確に一線を画せないところに問題を残しています。
しかしこの件は、歴史的に多くの判例の積み重ねがあり、不文法の規範があります。
ですから実際には個々それぞれに法令・判例をあてはめて擬律判断されるしかないと思われますが、その判例によれば、
猥褻物とは、
- 徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ
- 普通人の正常な性的差恥心を害し、
- 善良な性的道義観念に反するものをいう
ということになるそうです。
猥褻物とは
性欲の興奮又は満足の手段となる物をいう。もっぱら学問上又は芸術上の作品又は参考品とされるものは、おおむね猥褻物とはいえないが、その表現の態様によっては、猥褻物となることもある。
その場合に猥褻性の存否は純客観的に作品自体から判断すべきで作者の主観的意図的によって影響されるべきものではない。(法学博士 小野清一郎 著「ポケット刑法」抜粋)
同人誌の場合、学問上又は芸術上の作品又は参考品とはいえないから、猥褻物の主体になり得ます。
従って、個々の作品について、猥褻物かどうかは
- 徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ
- 且つ普通人の正常な性的差恥心を害し
- 善良な性的道義観念に反するもの
に照らして判断するほかありません。
例えば、具体的には
男女性別を問わず、
- 性器が見えたら即ダメ
- 薄い線で描写されているが、形が視認できたらまずダメ、
- 塗りつぶしがうすく、透けて見えるものはダメ
- ベタでもはみ出しているものはダメ(肛門を性器として描写している場合は見えるものダメ)、、
判断の分かれるところですが、取り上げ方、描写の方法によりダメ。ということになるのではないでしょうか。
* 頒布と販売とは
頒布とは、
多数人に配布する説と、不特定多数人に交付する説がある。
配布しようとしただけでは足らず、現実に相手方に交付されたことを要す。 郵送したが相手に到着しなかったときは頒布罪を構成しない。
無償に限る。有償ならば販売となる。頒布・販売の行為の故意は、問題となる記載の存在と、これを頒布・販売することの認識があれば足りる。
販売とは、有償に限る。
不特定又は多数の者に対して、反復の意思をもって有償譲渡することである。必ず多数たることを要するとの説も有力である。
ただ一回の譲渡行為も、反復の意思をもってすれば、販売となる。頒布についてはもちろんのこと、販売についても営利の目的はいらない。
頒布・販売等の行為の相手方は、共犯例の適用を受けて罰せられることはない。
法は相手の存在を予想しながら、あえて頒布・販売の行為者だけを処罰の対象として規定している。
(法学博士 小野清一郎 著「ポケット刑法」抜粋)
つまり印刷会社の立場からすると、立件されるかどうかは別として、もしお客様の受注作品が猥褻物であったら、それを印刷出版すると、頒布・販売(共謀があれば正犯)の幇助罪に問われることになりそうです。
(2) 青少年育成条例について(東京都の場合)
第三章 不健全な図書類等の販売等の規制図書類等の販売等及び興行の自主規制)
第七条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)
を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、
当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。
◎「表示書類」と「指定図書類」の規定について
「表示書類」とは東京都条例では不健全な図書類等について、
【図書類の発行】、販売又は貸付けを業とする者に対して
その図書類に、青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない旨の表示をするように努めなければならない。
と、表示をするように努力義務を科しています。
また表示書類とはどのようなものか?
条例施行規則 には以下のように示されています。
第九条の二 【 図書類の発行を業とする者(以下「図書類発行業者】という。)は、
青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、
青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認める内容の図書・・・・・
では次に「指定図書類」とは、
これも条例施行規則の中に以下のように定められています。
(指定図書類、指定映画等の基準) 第十五条 条例第八条第一項第一号の東京都規則で定める基準は、次の各号に掲げる種別に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 著しく性的感情を刺激するもの 次のいずれかに該当するものであること。
イ 全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
ロ 性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
ハ 電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に卑わいな行為を擬似的に体験させるものであること。
ニ イからハまでに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
二 甚だしく残虐性を助長するもの 次のいずれかに該当するものであること。
イ 暴力を不当に賛美するように表現しているものであること。
ロ 残虐な殺人、傷害、暴行、処刑等の場面又は殺傷による肉体的苦痛若しくは言語等による精神的苦痛を刺激的に描写し、又は表現しているものであること。
ハ 電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に残虐な行為を擬似的に体験させるものであること。
ニ イからハまでに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に残虐性を助長するものであること。
三 著しく自殺又は犯罪を誘発するもの 次のいずれかに該当するものであること
イ 自殺又は刑罰法規に触れる行為を賛美し、又はこれらの行為の実行を勧め、若しくはそそのかすような表現をしたものであること。
ロ 自殺又は刑罰法規に触れる行為の手段を、模倣できるように詳細に、又は具体的に描写し、又は表現したものであること。
ハ 電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に刑罰法規に触れる行為を擬似的に体験させるものであること。
以上のとおり、図書類の発行を業とする者は、上記の指定書類には、青少年が、観覧することが適当でない旨の表示をするように努めなければならない。 と定められており、「図書類の発行を業とする者」とは
発行者(印刷発注者)のことです。印刷業者ではありません。発行者には次のようなとりきめがあります。
・青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない旨の表示。
・表示図書類に青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法による包装。
包装の方法とは、以下のように規則に定めがあります。
(指定図書類等の包装の方法)第十八条 条例第九条第二項及び第九条の二第三項の東京都規則で定める方法は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一 ビニール袋等により指定図書類又は表示図書類(以下「指定図書類等」という。)全体の包装を行うこと。
二 伸縮しない材質のひもにより十字掛け又はたすき掛けを指定図書類等に行うこと。
三 前二号に掲げるもののほか、指定図書類等を容易に閲覧できない方法と知事が認める方法。
これをしなかった場合、知事(担当職員)から警告が発せられます。この警告に従わなかった場合
二十万円以下の罰金ということになります。
こういう条例で規制しなければならなくなった青少年の問題及び、青少年の有害環境の浄化について我々一人ひとりが、もっと真剣に考え取組まなければならない問題だと思います。
同人誌を形成する殆どは健全な世界ですから、「同人誌=有害説」扱いされないよう日ごろから注意しなければなりません。
4 おわりに
最後に、
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律について述べることにします。
児童ポルノ頒布等
第七条
児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
3 第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。
この法律の対象は写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、
電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)
ということですから、
つまりパソコン画像、CD、ビデオ等の電子的方式、磁気的方式のメディアを対象にしているので、通常我々が扱う「文書図画」の印刷・本、という「現物」の概念からは、少し埒の外という風に思われます。
が、しかし、データ入稿などとなってきますと、その時点での取り扱いが問題。実在する人物の写真は勿論、今後の問題として、実在の人物のCG化したものなどは大いに問題が残りそうです。
つまりは、データ入稿の事前のチェックがいよいよ重要な問題となってきます。
当社の基本的方針は今までどおり、より健全な同人誌作りに邁進していく所存です、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
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